刑務所介護士になるには?仕事内容・応募方法・必要な資格も解説

公開:2025/01/26 更新:2025/01/26
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高齢受刑者の増加に伴い、刑務所でも介護ニーズが高まっています。そのため、介護の専門知識を持つ「刑務所介護士」の採用が進められています。しかし、一般の介護施設とは大きく異なる環境であり、応募方法や必要な資格もわかりにくいのが現状です。


本記事では、刑務所介護士の具体的な仕事内容から、応募方法、雇用形態まで詳しく解説します。介護職として新たなキャリアを検討されている方、より専門性の高い職場を目指す方に向けて、判断に必要な情報をお伝えします。

受刑者の高齢化で高まる刑務所の介護ニーズ


法務省の令和5年版犯罪白書によると、高齢者の検挙人数は全体の23.1%と高い水準を推移しており、特に70歳以上が高齢者検挙人数の77.4%を占めています。そのため、刑務所内での介護ニーズは年々高まっているのです。


例えば鳥取刑務所では、65歳以上の受刑者が約1割を占め、70代以上の高齢者も増加傾向にあります。体調不良や認知症など、高齢受刑者特有の課題への対応が急務とされています。


このような背景から、刑務所内で介護業務を担う介護福祉士の役割が重要性を増してきました。リハビリテーションやおむつ交換など、日常生活全般のサポートを通じて、高齢受刑者の健康維持と出所後の自立支援に貢献しています。


参考:法務省 令和5年版 犯罪白書「第8章高齢者犯罪|第1節犯罪の動向」

刑務所介護士の業務内容は?


刑務所介護の仕事は、一般的な介護施設での業務に加え、刑務所特有の業務も含まれます。ここでは、鳥取刑務所の介護福祉士が実際に行っている介護業務の具体例をご紹介します。

通常の介護業務


刑務所介護士の基本的な業務は、一般の介護施設と同様に高齢者の日常生活をサポートすることです。まず、受刑者の身体機能維持・向上のためのリハビリテーションがあります。加齢による筋力低下を防ぎ、基本的な生活動作が維持できるよう支援します。

また、おむつ交換や食事介助など、日常生活に直結する支援も重要な業務です。特に食事については、高齢者の状態に応じてきざみ食を提供するなど、きめ細かな対応を行っています。

さらに、認知症の受刑者に対する専門的なケアも必要です。症状に応じた適切なサポートを行い、安全な生活を確保します。

高齢者特有の健康問題へのケアも欠かせません。腰痛や尿漏れ、排便困難、古傷の痛みなど、さまざまな症状に対して専門的な知識を活かした支援を行います。

なお、現在入浴介助は行っていません。刑務所特有の安全管理の観点から実施されていない点が一般の介護施設とは異なります。

刑務所ならではの業務


刑務所の介護士は、受刑者の社会復帰を見据えた支援が特徴的です。収監中は運動機能の維持に取り組むだけでなく、出所後の生活を具体的にイメージできるよう支援プログラムを提供しているのが特徴です。

また、一般の介護施設では対応しないような業務も求められます。その一例が、覚醒剤の後遺症に苦しむ受刑者へのケアです。この場合、医務部門と連携しながら、受刑者一人ひとりに合った適切な支援を行っています。

さらに重要な業務として、受刑者の介護認定や福祉手続きのサポートがあります。具体的には、要介護認定の取得支援や介護保険の申請手続きなど、出所後の生活に必要な行政手続きの支援です。

注目すべき点は、「必要以上の助けをしない」という支援方針です。これは、受刑者の自立を促し、社会復帰を成功させるための重要な考え方といえるでしょう。介護職員は、受刑者が可能な限り自分でできることは自分で行うよう促し、必要最小限の支援にとどめます。

このように、刑務所での介護は単なる生活支援にとどまらず、受刑者の社会復帰という大きな目標を見据えた、より包括的な支援を行っています。


刑務所介護士が勤務する施設の種類


刑務所介護職の勤務先は、大きく「一般刑務所(刑事施設)」と「医療刑務所」の2種類に分かれます。

一般刑務所は、刑務所・少年刑務所・拘置所・少年院などを指し、介護職員は施設内の「医務部診療所」に配属されます。

一方、医療刑務所は、専門的な医療・看護が必要な受刑者を収容する特別な施設です。全国に4か所設置されており、総合病院のような機能を持ち、医師や看護師も常駐しています。しかし、すべての被収容者が重い疾患を抱えているわけではありません。食事作りや掃除などの刑務作業を行う受刑者も収容されています。

近年の特徴として、一般刑務所でもバリアフリー化が進められています。例えば広島刑務所尾道刑務支所は昭和60年4月に広島矯正管区内の高齢受刑者を多く収容する施設として指定されました。

ただし、一般の老人ホームと比べると、設備や介護機器は十分とはいえないのが現状です。介護専門の職員が配置されている施設は限られており、多くの場合、刑務官や受刑者が介護業務を担っているのが実情です。

刑務所介護士に必要な資格


刑務所介護士も一般の介護職と同様、専門的な資格が必要です。おもに求められる資格は以下の3つです。

  • 介護職員初任者研修
  • 介護福祉士実務者研修
  • 介護福祉士

それぞれの資格の特徴や取得方法について、詳しく解説していきましょう。

介護職員初任者研修(旧ホームヘルパー2級)


介護職員初任者研修は、介護の仕事に就くための入門資格として広く認知されています。この資格があれば、食事・更衣・入浴介助など、高齢者や障がい者への基本的な介護サービスを提供できます。

資格取得には、講義と実技演習で構成される約130時間の研修を受講し、全課程修了後の修了試験に合格しなければなりません。研修では、介護の基礎知識から実践的なケア技術まで、幅広い内容を学びます。

年齢や学歴、必要資格、実務経験などの制限がないため、介護の仕事に興味がある方なら誰でもチャレンジできます。刑務所介護士を目指す第一歩として、最適な資格といえるでしょう。

介護福祉士実務者研修(旧ホームヘルパー1級)


介護福祉士実務者研修は、介護過程の展開や、医療的ケアなど、より実践的な専門知識と技術を学ぶための研修制度です。介護過程の展開とは、利用者の状態を把握し、介護計画を立て、実施・評価する一連の過程を指します。質の高い介護サービスを提供するための基礎となるスキルです。次のステップである介護福祉士試験の受験には、この研修の修了が条件となっています。

研修修了後は、訪問介護事業所でのサービス提供責任者として働くこともできます。受験生にとってうれしいポイントは、実務経験の有無や保持資格に関係なく受講できる点です。刑務所介護士としてのキャリアを考える方にとって、重要なステップとなる研修といえるでしょう。

介護福祉士


介護福祉士は、介護分野で唯一の国家資格です。この資格を持つ介護職員は、身体介護や生活援助はもちろん、相談業務や指導的立場としての役割も担えます。

取得するには介護福祉士国家試験に合格し、登録を行う必要があります。一度取得すれば更新の必要がなく、全国どこでも通用する生涯役立つ資格です。

大きな特徴は、介護福祉士の在籍が施設の介護報酬加算につながる点です。そのため、多くの施設で介護福祉士は優遇され、給与面でも有利になるケースが多いでしょう。

また、サービス提供責任者や生活相談員、チームリーダーなど、施設運営に欠かせない役職に就く際にも必要とされる資格です。あらゆる介護現場で高く評価されるため、刑務所介護士としてのキャリアを考えるうえでも、取得をおすすめする資格といえます。


刑務所介護士の応募方法と雇用形態・待遇


刑務所介護士の求人は、おもに刑務所が所在する地域のハローワークで募集されています。例えば、千葉刑務所では2024年1月と3月にパートタイム労働者として介護専門スタッフの募集が実施されました。また、2023年にも1回の募集があり、時給は1,245円でした。

募集形態は、パートタイム・アルバイトが中心で、一般の求人サイトでも時折募集しています。一方、正社員として採用された場合は国家公務員となるため、安定した収入と充実した福利厚生を得られるでしょう。

ただし、注意点として、刑務所介護士の求人数は非常に限られています。そのため、勤務を希望される方は、ハローワークや求人サイトの情報を定期的にチェックすることをおすすめします。特に希望する刑務所がある場合は、その地域の求人情報を重点的に確認しておくとよいでしょう。

刑務所介護士に応募する際に気をつけたい点


刑務所介護士の応募には、通勤や求人の信頼性など、いくつか注意しておきたいポイントがあります。重要な点を2つ解説します。

刑務所は通勤が不便な場所が多い


刑務所や刑事施設は、セキュリティの観点から一般的に人里離れた場所や郊外に建設されています。そのため、最寄り駅からの距離が遠く、公共交通機関での通勤が困難なケースがほとんどです。

このような立地条件から、多くの職員は自家用車で通勤しています。そのため、運転免許証の所持が必須となり、車の運転が苦手な方や免許を持っていない方には、通勤面で大きな負担になる可能性があります。

刑務所介護士の求人を装った詐欺がある


求人詐欺の手口は介護業界でも増加しており、刑務所介護士の募集を装った不正な求人にも注意が必要です。

特にSNSやWebサイトなどで見かける広告には要注意です。資格取得のための受講料や、刑務所介護士になるための紹介料を請求される詐欺事例が報告されています。

また、医療・介護業界では「おとり求人」も多く見られます。これは、実際には募集をしていないにもかかわらず、応募を集めるためだけに掲載される虚偽の求人です。

以下のような求人広告には特に注意が必要です。

  • 仕事内容や応募条件が曖昧
  • 面接なしですぐに内定が出る
  • 個人情報の提供を急かされる

安全な求人応募のためには、ハローワークなど信頼できる機関を通じて情報を得ることをおすすめします。

まとめ


高齢化の進行に伴い、刑務所での介護ニーズは高まる一方です。現状では刑務官や受刑者同士での介護が中心となっており、専門的な知識を持つ介護職員の募集も徐々に増加傾向にあります。

刑務所介護士は、受刑者を対象とした介護を行うため、一般の介護施設とは異なる独特の難しさがあります。しかし、正社員として採用された場合は国家公務員としての安定した雇用と待遇が得られる魅力的な職種です。

介護の専門性を活かしながら、新しい分野でのキャリアを考えている方は、ハローワークなどで定期的に求人情報をチェックすることをおすすめします。


【Q&A】
Q.刑務所介護士の給与はどれくらいですか?
A. 厚生労働省の調査によると、介護職員処遇改善支援補助金を受けている施設の介護職員は、以下のような給与水準となっています。

正社員の場合:月給31.7万円程度(単純計算で年収約381万円)
※これは基本給与の12ヶ月分の計算であり、実際の年収は賞与や各種手当により変動します。
パートタイム(常勤)の場合:時給1,375円前後

実際の求人例として、千葉刑務所では時給1,245円での募集実績がありました。
ただし、刑務所介護士は国家公務員として採用されるケースもあり、その場合は公務員給与表に基づいた給与体系となるため、一般の介護施設とは異なる可能性があります。また、夜勤手当や資格手当など、各種手当が追加される場合もあります。


Q.介護士のほかに刑務所で福祉の仕事はありますか?
A. 「福祉専門官」という専門職があります。2014年度から設けられたこの職種は、刑務所内で福祉の専門家として重要な役割を果たしています。
主な業務内容は、以下の5つです。

  • 高齢や障がいのある受刑者の社会復帰支援
  • 福祉サービスを必要とする受刑者の選定とニーズ把握
  • 出所後の福祉サービス利用に向けた手続き支援
  • 医療機関や福祉施設との連絡調整
  • 受刑者への福祉に関する相談・助言
応募資格として、社会福祉士または精神保健福祉士の資格を持ち、福祉関連の実務経験が概ね5年以上必要です。介護士とは異なる立場で、受刑者の社会復帰を福祉面からサポートする専門職といえます。

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