特別支給の老齢厚生年金とは?収入制限の基準や受給のポイントを解説

公開:2024/06/18 更新:2024/06/18
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令和4年4月に年金制度が改正されました。この改正により、65歳までの特別支給の老齢厚生年金における28万円の収入制限が廃止され、65歳以上と同じ基準額47万円へ変更されました。


60歳以降も働きたいけれど、収入があると特別支給の老齢厚生年金が支給停止されてしまうのではないかと心配な方もいるでしょう。そこで本記事では、特別支給の老齢厚生年金を受け取るための条件や、受給しながら働くためのポイントやコツについて解説します。


特別支給の老齢厚生年金の概要


特別支給の老齢厚生年金とは、厚生年金に1年以上加入している方が、65歳になるまでの間に受け取れる老齢基礎年金のことです。この制度が設けられたきっかけは、昭和60年に行われた法律改正です。その際に厚生年金保険の受給開始年齢が60歳から65歳に引き上げられた経緯もあり、受給開始年齢を少しずつ引き上げるために設けられました。


老齢基礎年金の受給は、原則として65歳から開始されます。しかし、特別支給の老齢厚生年金により、一定の条件を満たしている方は65歳からではなく60歳から年金を受け取ることが可能です。詳しい条件や計算方法を以下で解説します。


特別支給の老齢厚生年金をもらえる条件

特別支給の老齢厚生年金をもらうには、以下の4つの条件を満たしている必要があります。


【特別支給の老齢厚生年金をもらえる条件】

  • 男性:昭和36年4月1日以前、女性:昭和41年4月1日以前生まれである
  • 老齢基礎年金の受給資格期間が10年以上ある
  • 厚生年金に1年以上加入している
  • 決められた受給開始年齢になっている


老齢厚生年金の受給資格期間とは、保険料の納付が済んでいる期間と保険料が免除されていた期間などを合算したものです。厚生年金に1年以上加入していることも受給条件の一つとなっています。


60歳を過ぎてから働いていたとしても、場合によっては受け取ることが可能です。60歳以降に働いている場合は、厚生年金に加入する義務が発生するため、毎月の給与から厚生年金保険料が引かれます。そのため、賃金と年金を受け取りながら、年金を支払うことになります。


受給が開始できる年齢は男女で異なる

先述したように、受給できる条件には生年月日が含まれています。令和6年現在、受給が開始可能な年齢は男性が63歳以上、女性が60歳以上と男女で異なっています。例えば60歳夫婦の場合、妻は受給できますが、夫はまだ対象年齢になっていないため受給できません。このように、男女で同じ年齢から受給できるわけではない点に注意が必要です。



受給できる年金額の計算方法

特別支給の老齢厚生年金は、定額部分と報酬比例部分に分かれています。受給できる年金額はこの2つをそれぞれ計算し、合算することで求められます。


定額部分は特別支給の老齢厚生年金の計算の基礎となるもので、計算方法は以下の通りです。


1,701円(令和6年度)× 生年月日に応じた率 × 被保険者期間月数


生年月日に応じた率(定額単価)は1.875〜1.000の範囲で決められています。生年月日によって率が変わるため、よく確認しておきましょう。


また報酬比例部分は、老齢厚生年金の年金額の計算の基礎となるもので、年金の加入期間や過去の報酬等で決まります。平成15年3月以前と平成15年4月以降に分けて、以下の計算式で求めることが可能です。


平成15年3月以前:平均標準報酬月額 × 7.125/1000 × 平成15年3月までの被保険者期間月数

平成15年4月以降:平均標準報酬額 × 5.481/1000 × 平成15年4月からの被保険者期間月数


平均標準報酬月額は、月ごとの標準報酬月額の総額を加入期間で割ることで求められます。また平均標準報酬額は、月ごとの標準報酬月額と標準賞与額の総額を加入期間で割って求めた額です。


受け取りには請求手続きが必要

特別支給の老齢厚生年金の受給は自動的に開始するものではありません。受け取るためには請求手続きが必要です。


支給開始年齢に達する3ヶ月前になると、基礎年金番号・氏名・生年月日・性別・住所・年金加入記録が印字された「年金請求書」が日本年金機構から送付されます。届いたら案内に従って手続きを行いましょう。


請求書の提出時には住民票など本人の生年月日を明らかにできる書類や通帳のコピーのほか、人によっては雇用保険被保険者証なども必要です。必要書類がそろったら、年金事務所もしくは年金相談センターに提出します。


受給する権利は、受給開始年齢に到達した日(誕生日の前日)に発生します。


請求手続きは、特別支給の老齢厚生年金の受給開始年齢になってからでなければ行えないため、注意が必要です。また、特別支給の老齢厚生年金は繰り下げができないため、請求書が届いたら早めに手続きをしましょう。


特別支給の老齢厚生年金の収入制限とは


特別支給の老齢厚生年金には、令和4年3月まで収入制限が存在していました。そのため、所得金額によっては減額、もしくは受給停止になる可能性があったのです。


しかし、令和4年4月に制度改正された在職老齢年金の影響で、この収入制限の基準額が変更されました。収入制限の廃止と現在の基準額について、以下で詳しく解説します。


在職老齢年金とは

在職老齢年金とは、60歳を過ぎて就労しながら年金を受給する場合、一定額以上の収入があると年金が支給停止、もしくは減額になる制度です。


60歳以降の高齢者が特別支給の老齢厚生年金を受給した場合、賃金と年金の両方を受け取ります。すると年金だけを受給する高齢者に比べて所得が多くなるため、年金だけを受給する高齢者との間に不公平さが生じてしまいます。


両社の不公平性を防ぐために、法律で定めた基準以上の収入がある高齢者について、年金額を減額する仕組みが在職老齢年金です。


収入制限の廃止と現在の基準額

もともと65歳未満と65歳以上では、収入制限の基準額が異なっていました。しかし、令和4年4月に在職老齢年金の制度が改正され、収入制限が変更されます。


令和4年4月以前の収入制限は、以下のように定められていました。


  • 65歳未満:基準額が28万円より多いとき
  • 65歳以上:基準額が47万円より多いとき


基準額とは、老齢厚生年金や特別支給の老齢厚生年金について、報酬比例部分の月額と給与・賞与の合計額を指します。


このように、令和4年4月以前は65歳未満の収入制限額が低く設定されていましたが、2022年4月以降は65歳未満の方も基準額が47万円に緩和され、65歳以上と同じ基準となりました。


さらに令和6年4月にはさらなる改定が行われ、支給停止基準額は50万円となっています。現在、減額もしくは支給停止の基準額は年齢に関係なく一律です。



なぜ65歳未満の収入制限が廃止となったのか

65歳未満の収入制限の廃止は、高齢化の急速な進行と働きたい高齢者の増加が大きな要因です。


令和5年の高齢者白書によると、日本での高齢化率は29.0%となり年々上昇を続けていることが報告されています。一方で内閣府の調査報告では、70歳以降まで働くことを希望する高齢者が9割にのぼっています。


しかし、収入制限があると働き方を抑えてしまうことにもなりかねません。そこで国は収入制限を廃止し、高齢者の勤労意欲を削がないように、制度を整備したのです。



特別支給の老齢厚生年金と在職老齢年金の違いとは


特別支給の老齢厚生年金と名前が似ているものに在職老齢年金がありますが、この2つは別のものです。


特別支給の老齢厚生年金は、昭和36年4月1日以前に生まれた男性および昭和41年4月1日以前に生まれた女性のうち、一定の要件を満たした方に60歳〜64歳の間に支給される老齢厚生年金です。


一方、在職老齢年金は、一定額以上の収入があると年金が支給停止、もしくは減額になる制度をいいます。ただし、在職しながら特別支給の老齢厚生年金を受け取る場合も、在職老齢年金の支給停止の影響を受けるため、無関係ではありません。



就労しながら特別支給の老齢厚生年金を受け取るためのポイント


就労しながらでも、特別支給の老齢厚生年金を受け取れます。そのためには、事前に詳細な条件や手続きを確認し、適切な対応が必要です。押さえるべきポイントについて解説します。


基準年齢に達している

基準年齢に達していることが第一の条件です。老齢厚生年金の基準年齢は、通常65歳以上とされています。しかし条件を満たすことで、60歳以上から65歳になるまで特別支給の老齢厚生年金の受給が可能です。支給開始年齢となる頃に年金請求書が届くため、忘れずに手続きしましょう。


厚生年金保険などに一定期間加入している

特別支給の老齢厚生年金を受け取るには、以下の条件をクリアする必要があります。


  • 老齢基礎年金の受給資格期間(10年)があること
  • 厚生年金保険または共済組合などに1年以上加入していたこと


対象となるのは、年金保険料を納めていた期間が一定以上ある方です。厚生年金保険などへの加入期間が条件に満たない場合、対象外となるため注意しましょう。


所得制限を超えていない

賃金と年金額の合計が50万円以下の場合には減額されないため満額で受け取れます。しかし、一定の所得制限を超えると減額される可能性があることも覚えておきましょう。


賃金と年金額との合計が50万円より多い場合は、以下の計算式が適用されます。


減額される金額 = (基本月額 + 総報酬月額相当額 - 50万円)÷ 2


就労しながら特別支給の老齢厚生年金を受け取る場合は、賃金と年金額の合計を意識するとよいでしょう。合計が50万円を超えないよう、働き方を調整するのも一つの手です。その際はアルバイトやパートなどの勤務形態を選ぶと、時間調整の融通が利きやすくなります。


まとめ


働きながらでも、特別支給の老齢厚生年金を満額受給することは可能です。その際は、シフト調整がしやすい仕事など基準額を超えない働き方を選ぶとよいでしょう。


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【Q&A】
Q1.特別支給の老齢厚生年金とは?
A:厚生年金の加入期間が1年以上ある方が一定の条件を満たすことで、65歳になるまでの間に受け取ることができる老齢厚生年金です。厚生年金保険の受給開始年齢が65歳に引き上げられた際、受給開始年齢を段階的に引き上げるために設けられた制度です。

Q2.特別支給の老齢厚生年金に収入制限はある?
A:賃金と年金額の合計が50万円を超えると、減額もしくは支給停止となります。賃金と年金額との合計が50万円より多い場合は、「(基本月額 + 総報酬月額相当額 - 50万円)÷ 2」の計算式を適用した額が減額されます。
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